朝、もょもと達3人の中で最初に目を覚ますのは決まってすけさんで、それは今日も変わりの無い事だった。

宵闇の支配する空に光が差す頃、すけさんは何かの物音で目を覚ました。それは多分、シスターが活動を始めた事によるものなのだろう。
この祠に3人が滞在してからというもの、1日の流れはいつもそこから始まっている。
シスターが起きた事に反応してすけさんが目を覚まし、シスターが神父を、すけさんがもょもととアイリンを起こす。
そして3人が支度を済ませる頃にはシスターが茶を用意し、それが済む頃には朝食の用意が出来ている。
3人は、それが今日も変わりの無い事である様に考え……そしてそこには1つの差異があった。
普段ならば3人が支度を済ませた頃にシスターが顔を見せるのだが、今日はそこに、神父の姿もあったのだ。
それは何も、おかしい事ではない。同じ屋根の下で暮らす者が、挨拶に来たというだけの事なのだから。
しかしそこで、僅かながらも違和感を覚えてしまった3人のそれは、これまでの旅の中で培った警戒心によるものなのだろう。
「やぁ、お早う御座い……ます?」
シスターが顔を見せた事に反応して挨拶をしたすけさんは、その隣に神父の姿を確認した事で、表情を変えずに言葉だけで戸惑って見せた。
そのすけさんとは対照的に、表情だけで困惑して見せたのはもょもととアイリンだ。
「……ん」
「……?」
しかしそれに対して何ら疑問を抱く事など無いといった風に、神父が口を開く。
「もょもと様、すけさん様、アイリン様、お早う御座います」
「あ、あぁ……お早う」
「お早う御座います」
「う、うむ、お早う」
神父の挨拶に、もょもととアイリンは表情を取り繕って挨拶を返し、すけさんは言葉を取り繕って挨拶を返す。
「もょもと様、すけさん様、アイリン様、お早う御座います」
最後に挨拶をしたシスターの柔らかい声はまるで、そこに漂う奇妙な空気を払おうとしているかの様だ。
しかし、そんな3人の疑念を杞憂とさせたのは、続く2人の言葉だった。
「今年も皆様に、精霊ルビスの御加護があらん事を」
神父が軽く頭を下げながら、シスターが深く頭を下げながら。
「今年も皆様に、精霊ルビスの御加護があらん事を」
それぞれに言った。
その言葉の意味を理解して、理解し切れない3人である。
僅かな沈黙があり、その中で、ようやくといった感じで反応する3人。
「……あ」
「あぁ、そうか……!」
「そうじゃ、今日は……」
素直に驚き、次いで先程の違和感と疑念を如何に消化したものかと困惑する様な表情を浮かべる3人に対し、表も裏も無く、ただ柔らかい笑顔を向ける2人。
「すぐに朝食の準備をします。先にお茶をお持ちしますので、飲みながらお待ち下さい」
シスターが控えめに言って、2人は去っていった。



「くっ……ははっ」
「そう言えばそうだったね……この間、神父さんに聞いたばかりなのに、すっかり忘れていたよ」
「笑えない話じゃな」
言いあって、笑いあう。
これから最後の拠点を発ち、ハーゴンの待つ決戦の地へと向かう3人である。それが期せずして1年の始まりであったという事に、何か感じるものがあったのかも知れない。

 

 

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